拡張現実国家 “Augmented Real State” 出現の脅威     IGIJ 理事 林 吉永

ICT “Information and Communication Technology”(情報通信技術)の一つにAR “Augmented Reality”(拡張現実)という技術がある。コンピューターを使用して、人を取り巻く環境を現実の存在として作為する技術である。
筆者の所属するNPO国際地政学研究所は、創設時、事務局をネット上に設置し、スタッフや会員がアクセスして運営できるよう試みた。実現すれば、オフィスや設備に経費をかけず、月何万円もの経費を節約できることになる。ところが、法人登記申請時、役所から「現実に住所が無ければ不可」とされた。この事例は、IT社会が進化しているにもかかわらず、サイバー空間に発生している現象に思考が追随できていないことを示唆している。
「地政学的リスク」で領土や「イスラム国(ISIL “Islamic State in Iraq and the Levant”)」問題をくくると社会全体の現象やその要因を見逃すおそれが発生する。「戦争の世紀20世紀」は、世界を領土や国益をめぐる「地政学」の枠組みに収めていたが、今日では、「地政学」を進化させてきた通信や輸送の技術に加えてコンピューター技術がこれまでの世界を宇宙やサイバー・スペースにまで拡大した。
ARは、一般的に「実象に情報を追加、あるいは削除などして変化させ現実世界を拡張したもの」であって実象の強調を伴う「現実感」が存在し続ける。よく似た現実の作為に “Virtual Reality (VR)” があるが、厳密には、実象が「作為された現実」と差し替えられるため「仮想感」が優る。ここではARとVRの相違を解説するのが目的ではない。このような技術が何をもたらしたかを「ISIL」と関連付けて考えてみたい。
冷戦期まで、脅威には姿、形があった。暴力国家、破綻国家、非国家主体が新たな戦争の主役となっても、脅威の顔は見えた。しかし、テロリストが跋扈しISILの出現に至ると、人間の仕業であるにもかかわらず、その脅威の姿が捉え難くなった。シリアやイラクの領土にプロットされた彼らの存在は、確かに現実であるが、彼らは世界の何処でもサイバー・スペース上でその存在を誇示できる。もはやISILは、国家成立の要件が「領域・権力・国民」であるならば、ネット世界においてARという形で国家を成立させつつあると言えよう。桜美林大の加藤朗教授は、これを “Hyper State(ハイパー国家)” と呼んでいる。
ネット世界の問題について、英国の「子供を心的障害から護る」団体 ”Kidscape” は、11~18歳の若者対象の調査において、ネット世界に居る若者には、「現実世界よりネット世界にいる方が幸せだ」、「ネット世界は自分への自信を見つける場にもなっている」、「ネットでは、簡単に自分がなりたいと思う人格になれる」、そして「ネット世界では気に入らなければやめるのも簡単である」などが半数近く占めているという結果を報告した(2011年)。ISILは、このようなネット上の傾向に便乗して、「拡張現実国家」に若者を誘うサイバー・スペースを自由に操り、戦闘員を徴募しているのである。
さらにハイパー国家では、何処に居住していようとも「ネット国民」として「アドレス」を保有・登録できる。ナイジェリアの「ポコ・ハラム」がISILの統制下に入ったように、「ISILネット国民」が中央統制され地域において組織化される可能性は高い。ハイパー国家から伝統的国民国家が攻撃を受けた場合、個別的防衛はもはや至難である。ハイパー国家の攻撃に対抗するには、国家規模の強力な仕組みと装備・技術が整っていて、それが国際システムを形成していることが要件になる。
このような文脈からは、「防衛・安全保障の新たなコンセプト」に基づいた戦略を創出し、現在の「軍事力の役割」を再考しなければならない。軍事力の役割が変わったと言われて久しいが、その認識途上で重ねて変化が進んでいる。防衛力整備に物理的な力を注ぐことに予算が目立っている今日、改めて新たなジオポリティークに目覚めた国家安全保障戦略の策定が急務となっていると感じるのである。

拡張現実国家 “Augmented Real State” 出現の脅威     IGIJ 理事 林 吉永” に対して1件のコメントがあります。

  1. eliotest より:

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