「台湾有事シナリオ-日本の参戦は必至」

米中対立

4月17日、訪米中の菅義偉首相は、J・バイデン大統領と会談、共同声明を行い、「台湾問題」に触れた。それは、1969年の沖縄返還に伴う「佐藤栄作首相・R・ニクソン大統領共同声明」以来の言及となった。

52年前は、「日米安保条約が日本を含む極東の平和と安全の維持のため果たしている役割をともに高く評価」し、ニクソンは「米国の中華民国に対する条約上の義務を遵守する」、佐藤は「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとつてきわめて重要な要素である」と声明し、「戦争抑止」に一役買っていた。
・地域の他者に対する(中国の)威圧に反対
・南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動に反対
・国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形での航行及び上空飛行の自由を保証
・自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認
このため、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決のため、中国との素直な対話を促す。」

さらに、菅首相は記者会見において、
「特に台湾海峡の有事を抑止するために日本ができること、有事が発生した場合に日本ができること、こうした点について、菅首相からバイデン大統領に、どのような説明を行ったのか」という質問に対して、「地域情勢について意見交換する中で、台湾をめぐる状況について議論の詳細は、外交上のやりとりのため(発言を)差し控えるが、台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間での一致を改めて確認した」とした。しかし、具体策には触れていない。

また、「中国との共生」について、「日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識し、(中国に対し)直接に懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」としている。

安全保障上の現状打開は難しい。何故ならば、中国の面子(メンツ)を潰(つぶ)さず、日米に都合のいい「中国の撤退」を引き出すのは至難だからだ。「大岡忠相の『三方一両損』の裁き」であれば「痛み分け」も期待できるのだが、中国の納得が得られる駆け引きができるだろうか。

しかし、この話は、「当事者の台湾が蚊帳の外」だ。日米共同声明に、台湾の蔡英文総統の報道官は、「感謝と評価」のコメントを発表しているが、日・米・台の連携無く中国との協調はあり得ない。これについては、おそらく、極めて高度な外交手段、軍事的思考による検討、話し合いが進められるに違いない。
台湾問題解決に希望的観測は禁物だ。まず、最悪の事態を考えることから始めたい。

「最悪」は、中・台の軍事衝突で、台湾が単独で戦わなければならないケースだ。海上を包囲する空母はじめ中国艦船は、海上及び航空優勢の下、空襲、艦砲射撃、ミサイル攻撃を行うだろう。中国本土からはミサイル、爆撃機の攻撃が行われる。台湾島破壊は、生存に必要なあらゆるインフラ、施設設備を喪失させる。中国の『超限戦』の実行である。台湾の人々に避難の時間的猶予があるか。中国の航空優勢は台湾の軍民全ての航空機を離陸不能に陥らせる。数百万人を擁する6都市の10%の市民が犠牲になれば、180万人に達する。
それでも台湾は抵抗するのか。生存の選択肢は、「中国に対して白旗を上げる」または「機を得て『独立宣言』し、多数国との『集団防衛体制』を作り、『集団的自衛権行使』を確かにする」ことの2者択一だ。単独で中国に歯向かい、台湾島が破壊しつくされるほどの攻撃を受け、滅亡の道を選ぶことはない。多数の国々が台湾を救う戦争に参戦する「大義名分」には、「中国が言う『内戦だから内政干渉するな』という声明」を超える「国際社会の正義」を保証しなければならないだろう。それには、「台湾独立宣言」が必至である。

「米国頼み」は最善の現実的具体策だ。日本も同様だが、台湾には自己完結する防衛力は無い。足らざる防衛力は米軍や多国籍軍によって「補完」しなければならない。冷戦時のヨーロッパ西側諸国及び中立国は、米国を核心とするNATO体制で「戦争そのものの抑止」を機能させていた。中立国は国民一丸となって戦いを覚悟し、NATOの援軍を待つ体制を構築していた。

米国は台湾のパトロンとなるだろう。米国が手をこまねいて傍観することは、米国に対する同盟国の信頼を裏切ることになる。「インド・太平洋構想」は、現安全保障環境を「新たな冷戦」と言うならば、「太平洋同盟」に発展させ、NATO並の安全保障体制構築を急がなければならない。

米中戦争の行方は、「台湾」ファクターが鍵を握っている。日本の参戦も必至である。日米同盟は、安倍時代に「集団的自衛権行使の容認」によって、専守防衛を超え、戦争への距離を「ゼロ」とした経緯から、「不戦・棄権」の選択肢はない。「参戦」しかない。しかも「台湾の独立宣言」は、台湾が仲間に助けを求めるサインであって、日本が「台湾ファクター」から逃げることはできない。先の日本の戦争において、台湾は、日本を最後まで裏切らなかったのだから。

NPO国際地政学研究所 理事 林  吉 永